資料 −免疫について   by 免許鍼灸師 小島正
                               Leaside Acupuncture and Shiatsu Clinic, 591 Eglinton Ave. East, Toronto, Ontario, M4P 1P87 電話:416-486-0287

人間の身体には、ウイルスや細菌、異種細胞、異物(今後簡潔にするため、これらを総称して、ばい菌と呼びます)の侵入に対して、それらを破壊、解毒し、或は除外して、自分自身の身体を護るメカニズムが出来ており、これらの事を免疫と呼びます。
又慢性的、原因不明の病気等、かなりの人々(半病人も含む)の病の原因が、この免疫の低下が元で起こると考えられています。免疫が低下する理由は、様々な事が考えられますが、最も重要と思われる二つの理由を説明します。

1)扁桃腺
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扁桃腺とは:
  扁桃腺は、鼻の奥と喉の奥の左右にあり、風邪を引いた時に、よく腫れたり痛くなったりする所です。この扁桃腺は、ばい菌等の外敵から身体を護る免疫器官です。云わば身体における最初の関門の様なものです。扁桃腺と言うと、よく喉の奥の両側にある口蓋篇桃(昔は腫れると直ぐに切除された所)を思われるかも知れませんが、その他にも耳管扁桃(耳管の付け根)、舌扁桃(舌の付け根)、小扁桃(喉の奥)、咽喉扁桃(アデノイド、鼻の奥)等があり、これらが気道の周りをぐるりと囲むように存在しています。これらを総称して「ワルダイエル扁桃リンパ輪」と呼びます。ここには、白血球を作る(造血)働きがあり、鼻から入って、気道の防御ラインを潜り抜けて来た空気中のばい菌や異物は、扁桃リンパ輪によって取り込まれ、IGA(鼻水と唾液に含まれる物質)の助けを借りて白血球が消化し、無毒化する事によって、身体を護っています。しかし、様々な原因により扁桃腺が弱体化し、これらの免疫機能が発揮されず、ばい菌などがフリーパスで体内に入り、体内の免疫力で消化し切れなくなった時に、病気になるのです。その原因と解決方法を説明します。

A
扁桃腺弱体化の原因
  原因の一つは、口呼吸です。それでは、何故口呼吸が扁桃腺の弱体化を起こすのでしょうか?
乳児期以降の人間以外の哺乳動物は、口で呼吸する事が出来ません。すべて鼻呼吸であり、口で呼吸が出来るのは、人間だけです。これは、言葉を獲得した結果、人類のみに生じた構造的欠陥と言えます。「犬は、何時も口でハアハアと息をしている」と見られがちですが、これは犬には汗腺が無い為に、汗で体温を下げる事が出来ず、鼻から息を吸い込んで、舌をラジエーター代わりにして、体温を調節しているだけなのです。決して、口で呼吸をしている訳ではありません。
口で呼吸した時と鼻で呼吸した時に、どの様な違いが起こるのかと言うと、鼻は天然の空気浄化装置の様な造りになっています。鼻のお陰で、吸った空気を濾過する事が出来ます。これは気道の表面の細胞に、細かい毛(繊毛)が生えており、そこには粘液が流れていて、ばい菌などが繊毛に吸着され、鼻水によって体外に排出されます。
もう一つ重要な働きがあります。それは、空気の温度調節をしてくれると言う事です。鼻の穴から、咽頭までの気道は、わずか15cmですが、この部分の気道の周辺には、数多くの空洞(副鼻腔)が開いています。これらのこう腔洞を通ることによって、空気が暖められてから肺に入る仕組みになっています。鼻の穴は実に巧妙な仕掛けがしてあって、冷気でさえ暖めてからではないと喉に通さず、更にこの暖められた空気は、湿度が100%近くになるまで加湿されるのです。乾燥した空気は、喉の細胞を傷つける大敵であり、又空気中に漂っているばい菌は、乾燥した環境を好むものが多いため、湿気によって、その侵入や繁殖を防ぐ必要があります。ところが口呼吸をした場合、これらのシステムを一切使わない事になり、空気中のばい菌を含んだ空気や冷気が、ダイレクトに喉に侵入してきます。そして、その喉にある防御ラインが、扁桃腺なのです。しかし、ここで知っておかなければならない大事な事があります。図で見て判るように、扁桃腺には、5種類あります。気道(鼻から喉)にあるのは、小扁桃、耳管扁桃、咽頭扁桃(アデノイド)、そして飲食道(口から喉)にあるのは、口蓋扁桃、舌扁桃です。身体の中にばい菌等が入る可能性は、大きく分けて二つあります。一つは空気から、もう一つは飲食物からです。そして気道にある扁桃腺は、空気中のばい菌を処理する働きがあり、飲食道にある扁桃腺は、飲食物に付着したばい菌に対しての、免疫を担当しているのです。従って、口呼吸によって侵入してくる空気とその中のばい菌等に対して防御機能を持たない口蓋扁桃と舌扁桃は、大きなダメージを受けることになります。その後どうなるかと言うと、扁桃腺が感染した場合、その扁桃腺から産出される白血球に処理仕切れなかったばい菌がくっついたような形になって、全身に行き渡り、様々な病気又は半病気(検査では異常が発見されない)が現れるのです。以下の症状があったら、口呼吸をしているサインです。

自然な状態にしていると、口が半開きになって、締りの無い状態になる。
前歯が飛び出たり、歯に隙間が多い。
上下の歯の噛み合せが、逆になっている。(受け口)
何時も片側の歯で噛む癖があり、歯の噛み合せが悪い。
下唇が上唇より分厚い。
唇がかさかさに乾燥する。
朝起きると、喉がひりひり痛い。

         

B
解決法
  一つ目は、勿論鼻呼吸を意識してやる事です。又無意識に口が開いてしまう場合は、矯正方法として、無糖のガムを噛むのが手軽な矯正法です。寝ている時に口呼吸になってしまう人は、紙テープ等を貼り、低めの枕(無くても良い)で仰向けになり、大の字に寝る事をお勧めします。
二つ目は、ウガイをする事です。ウガイの方法は、アキネシア(Echinacea)15滴、塩一つまみをコップ半分のぬるま湯で溶かし、ウガイをして下さい。回数は、沢山やればやる程効果があります。最低でも一日5回以上をお勧めします。
これだけでも効果がありますが、、尚一層の効果を期待する時は、鼻から口へ流すようなウガイをすると良いでしょう。コップでも出来ますが、ケチャップやスポーツドリンクの空き容器などを使うとやり易いと思います。無理に鼻から啜り込もうとすると、昔プールで経験したように、鼻がツーンと痛くなりますので注意してください。只、鼻の穴に水を落としてやれば、自然に口へ流れてゆきます。でも、どうしても出来ない人は、無理せず、普通のウガイだけでも十分です。


2)自律神経
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自律神経とは:
  身体を構成する約60兆個の細胞を無意識の内に調整している神経です。自律神経には、交感神経と副交感神経があり、両者が環境や状況に応じてシーソーの様に揺れ動くことで、私達の体調は整えられています。交感神経は、体調を興奮させる神経で、主に昼間の活動時に優位に働きます。交感神経が優位になると、その末端からアドレナリンという神経伝達物質が分泌され、心臓の拍動を高め、血管を収縮して血圧を上昇させ、身体は活動的になります。
一方の副交感神経は、主に休息時や食事を摂る時に優位に働く神経で、アセチルコリンという物質を分泌して心臓の拍動を緩やかにし、血管を拡張させ血流を促し、心身をリラックスした状態にします。又、副交感神経が優位になると、細胞の分泌や排泄が促されて食欲が進み、排便も促進されます。そして、交感神経と副交感神経が内臓や血管だけでなく、血液中の白血球の数と働きをも調整しています。従って、自律神経のバランスが崩れると免疫力の低下を招くことになります。

A
白血球と自律神経の関係
白血球は、免疫を含む自己防衛システムにおいて、極めて重要な働きをしている血液成分です。この成分は、「リンパ球、顆粒球、マクロファージ」の三種類の血球細胞から成り立っており、健康人の比率は大体、リンパ球35%、顆粒球60%、マクロファージ5%になっています。ここで、全体の95%を占めるリンパ球と顆粒球ですが、これらの働きは血液中を循環しながら、外から侵入したばい菌等、又体内で発生した異常細胞(癌細胞など)を排除、処理しています。その際顆粒球は、細菌や古くなった細胞の死骸を食べて処理します。一方のリンパ球は、ウイルス等の微小サイズの異物に対し、それらを無毒化する交代と呼ばれる蛋白質を作って処理します。毎日のように体内に出現する癌などの異常細胞もこのリンパ球の働きによって処理されるので、健康な状態が維持できるのです。ストレスを溜め過ぎると病気になる事は、良く御存知かと思いますが、それでは何故ストレス過多で病気(免疫低下)になるのか説明します。ストレスが溜まると二つある自律神経のうちの交感神経の働きが活発になります。交感神経は、「餌獲り神経」とも言われています。動物が餌(獲物)を獲る時、心臓の拍動が早くなり、血管が収縮して、胃の働きが止まる(物を食べながら獲物を獲る動物はいません。何せ必死なのですから。)等自然に身体が興奮状態(アドレナリン過多状態)になり、獲物を仕留めます。しかし、この緊張状態が続いた場合を、人間に当てはめると、血管の収縮が進み、血流が阻害され、更に拍動も早くなり、常に心臓や血管に負担が掛かっている状態になり、軽いものは肩こりや筋肉痛、その他痺れ、精神緊張、イライラ、不眠、重くなると高血圧や心臓病の発症が促されます。また、胃腸の蠕動運動も止まる為食欲減退、消化不良なども起こします。又動物が餌を獲るときは怪我をし易い状態にもおかれますので、「傷を作りやすく、細菌感染に掛かり易い」等のリスクがあります。最近に感染した場合、何が必要になるかと言うと、先程説明した白血球のうちの「顆粒球」が必要になります。この「顆粒球」は、細菌を食べて身体が細菌に感染する事を防ぎますが、これが長期のストレスに晒されて、常に交感神経過緊張の状態に置かれると、「顆粒球」の割合が増え過ぎてしまいます。すると感染症を防ぐ一方で、増え過ぎた場合、体内の常在菌(ふだんは、身体に対して無毒で、誰もが皆持っている菌)を攻撃して、化膿性の炎症をを起こします(例、急性肺炎、急性虫垂炎、肝炎、腎炎、膵炎など)。
又、寿命を迎えた顆粒球は、臓器や血管などの粘膜上で、活性酸素を放出しながら死んでゆきます。活性酸素は、強力な酸化力で組織を破壊する毒性酸素としても働くのです。普通は体内に無毒化するシステムが備わっていますが、余りに過剰に発生すると、その働きが追いつかず、広範囲での組織破壊が進みます(例:癌、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、白内障、糖尿病など)。
更にもう一つの重大事があります。白血球のうちのもう一方の「リンパ球」の数が減少します。「リンパ球」の体内における割合は、顆粒球とは逆に、リラックス神経である副交感神経により、増減しています。詰まり、リラックスした状態になると、リンパ球の割合が増え、「ウイルスに対する免疫」と「癌細胞等異常細胞の排除」が、速やかに行われ、身体を健康な状態に保つのです。しかし、何時もストレスを溜めて、リラックスする時間が無いと副交感神経の働きによりバランスが保たれている筈の(白血球中の35%が正常)割合が下がり、風邪を引き易くなったり、癌になったりするリスクも高まります。交感神経と副交感神経は、何時もシーソーの様に相対的に上下して、バランスを取るという性質があります。ですから、常にバランスが取れて、リンパ球と顆粒球が、十分に働ける環境にあれば、身体にとって最高の免疫力が発揮される事になるのです。

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解決法
自分のストレスを意識すると共に分析し、その原因を除去・軽減する。つまり、考え方や生き方を変える。
 (仕事が忙しい・・・。だからこそ休養が必要なのです。好きな事をする。旅に出て温泉に浸かる。自分を考え直すのです。) 
適度な運動をし、ゆっくり噛んで食事を楽しむ。冷たい飲食物は、控えめに摂る。
温め(ぬるめ)のお湯にユックリ浸り、身体を温め、血行を良くし、副交感神経を優位に導く。
 (熱い風呂は、交感神経優位とするので、寝る前には入らない。又痛み止め等、交感神経を刺激する薬を無闇に飲まない。)
ユックリと深く腹式呼吸を行う。勿論鼻からの鼻呼吸です。
「爪揉み」をする。(具体的方法と効力を、下に付記しましたので、貴方も早速始めて下さい。)


「爪揉み」免疫療法
薬指を除き、全指の爪の生え際を10秒づつ、特に痛いところは20秒、強く揉んで刺激します。(薬指は、交感神経優位に導き、逆の作用をもたらすから揉まない事。)一日に23回、毎日行う。二週間もすると、免疫力が強化され、とても快調で健康になります。これらのツボは、自律神経を副交感神経優位に導き、心身をリラックスさせ、免疫力を高める事で、万病の予防と治癒を図るものです。  「継続は力なり」と言われますが、ほんの一二分の爪揉みをするだけ、場所も道具も、ましてや薬もお金も要らない、優良健康法ですから、是非毎日続けてみてください。特に夜寝る前に揉むと、指先がポクポク温かになり、心地よく脈打っているのが分り良く眠れます。この健康法は、日本自律神経免疫治療研究会の理事長 福田稔医師と、新潟大学の安保徹教授との共同研究の成果との由。 カナダの病院や救急隊員も、患者の意識を覚醒させる為、親指の生え際を強く刺激するそうです。誰でもその位痛いのが普通ですが、本当に健康な人は、痛がりませんし、普通の人でも、体調により痛さが違うのに直ぐ気が付くと思います。痛いからと、痛くないように揉んでも、役に立ちませんから、シッカリ強く揉んで下さい。

指ごとの効力は、次の通りです。
親指   : 肺等の呼吸器系  アトピー、咳、喘息、リウマチ、ドライマウス、円形脱毛症 など
人差し指 : 胃腸等消化器系  潰瘍性大腸炎、クローン病、胃弱、胃・十二指腸潰瘍 など
中指    :  耳 関係、 耳鳴り、難聴 など
小指   : 心臓、腎臓等循環器系  脳梗塞、ボケ、物忘れ、メニエル病、パーキンソン病、不眠、高血圧、糖尿病、肩こり、腰痛、椎間板ヘルニア、動悸、頭痛、腎臓病、頻尿、尿漏れ、痛風、精力減退、肝炎、肥満、痺れ、生理痛、子宮筋腫、子宮内膜症、パニック障害、更年期障害、顔面神経痛、不安神経症、自律神経失調症、、うつ状態、目の病気 など

<参考文献>
「赤ちゃん」の進化学  西原克成著  日本教分社 (上の図は、P.69より)
呼吸健康術        西原克成著  法研
内臓が生み出す心   西原克成著  日本放送出版協会
未来免疫学        安保徹著    インターメディカル社
医療が病を作る     安保徹著    岩波書店
免疫を高めると病気は必ず治る 安保徹/福田稔監修  マキノ出版ムック    


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